鬱血した生首

 

間違えて喉奥に爪をぶっ刺し続けている。身体が物理的に強いで定評のあるわたしだが、どうやら粘膜は人並みの耐久性しかないらしい。少しだけ唾液に血が混じっていて。そういえば最近トマト食べてないなあとぼんやり思った。

1年以上ぶりにわたしの肩を見た友人は「骨がすごいね」と言った。体重をいくら落としても本当に痩せたいところが変わらない。そのせいで太っているのに肩の骨だけ突出している状態が出来上がってしまったのだ。冗談のつもりでこのままいくとガンキャノンに進化するよと返したら、真面目な顔で「あながちだね」と頷いていた。友人とは結構仲がいいつもりでいたんだけど、わたしのことをなんだと捉えているんだろう。

わたしが喉から血を流しているのも、ガンキャノンになりそうなのも今に始まった話じゃない。時間という概念が不変である限り。いつでも変わらないつもりでいる。ずっとこの心身と歩んできた二十幾許かであるのだ。変われなかった。少なくともプラスの方向には。

強くてふとましい身体に、少しだけおかしい脳味噌と心を積んで。わたしは正しく時系列を進んだ。薄く刻まれたトラウマも死に至りそうな挫折も、幻聴も幻視も、息が詰まる・或いは呼吸が出来ない程の痛みだって全部。正しかった。わたしは何にもなれない。かわいくもいじらしくもスタイルよくも賢くも。そういう長所のピックアップだけじゃなくあまつさえ人間にすらなれない。ガンキャノンに変態しなくても。あとね、母親にもなれないってさ。機能的な意味じゃなく。

けれどこの人生は幸福だ。

嘘とか強がりとかじゃない。わたしにも憧れがあったけど、それを今更論ずるのは意味がないので。理想像との乖離を以て不幸か否かを断定する方式に於いては、そりゃ不幸でしかないだろうけど。本当は産まれてくること自体が不正解な人間だったから、この世界に産み落とされた時点で全てが正解で、二元論的にしあわせなのだ。イレギュラーが故に任意の誰かに迷惑を掛け続けていることに関しては申し訳ないけれど。しあわせでごめんね。産まれてごめん。ね、あなたの何者かはいちばんしあわせです。

呼吸をするだけマイナスになる世界で、わたしはしあわせを数えています。賽の河原みたいでおもしろいね。拾い上げた積み石を君にぶん投げるから、いつか届きますように!

投げられなくなる前にね。